国際先導研究 NLR生物学の基礎的理解による作物耐病性増強
本研究課題について
病害防除は、世界の食糧安全にとって最重要課題である。最も有効な手段は、Nucleotide-binding Leucine-rich repeat Receptors (NLRs) 遺伝子の利用である。本提案では、重要作物イネ、コムギ、ウリ科作物とそれらの病害を実験対象として、(1) NLRペアーとネットワークの探索、(2) NLR活性化機構の解明、(3) NLRの認識機構の解明、(4)NLR生物学の応用の研究を展開する。本研究は、日本計8名、英国計6名の先端研究者からなる共同研究体制により実施し、若手研究者を育成し、当重要分野の次世代の発展に寄与することを目的とする。
研究の目的と意義
世界の作物生産にとって、植物病害は重大な脅威である。作物病害防除の最も有効な手段は、抵抗性遺伝子 (R-gene) を保有する抵抗性品種の利用である。抵抗性遺伝子の多くは、Nucleotide-binding leucine-rich repeat 受容体 (NLR) をコードしている。 獲得免疫のない植物において、NLRは、多様な病原菌を認識して耐病性を発揮する主要な役割を担う。NLR遺伝子は、多くの植物種のゲノムにおいて高度に増幅している。単独NLRが機能する場合、複数のNLRがペアーやネットワークを構成して機能する例などが知られてきた。高次構造解明により、NLR抵抗性の活性化機構が明らかになりつつあるが、その機能は多くが未解明である。本研究では、重要作物イネ、コムギ、ウリ科作物とそれらの病害を対象として、日本の植物耐病性研究の専門家が、英国の世界最先端の研究者らと共同研究を展開する。NLR生物学の基礎を理解し、得られる知識を応用して作物の耐病性増強を図り、世界の食糧安全に寄与することを目的とする。そのために、 (1) NLR遺伝子の探索、(2) NLR活性化機構の解明、(3) NLRによる病原菌因子認識機構の解明、(4) NLR生物学の応用による作物抵抗性付与の4課題に取り組み、本重要学術分野を牽引する若手研究者の人材育成を進める。
人材育成計画の内容
予算全体の70% を人材育成に充当する。日本側の5研究グループ(寺内研、吉田研、高野研、岩手生工研、奈良先端大植物共生学研究室)から、計8名のポスドク(PD)および計8名の博士課程学生(PhD student)が研究に参画する。計画の進行にあわせてPD、PhDの数を4-5人増員することも考慮する。この中から12名を選抜し、短期派遣プログラム(3-6ヶ月間)および長期派遣プログラム(1-2年間)として、英国共同研究者6名の世界先端研究室への留学支援を実施する。ポスドクの雇用経費、英国渡航経費および英国滞在経費を本課題の人材育成費から支出する。また、日英両グループ共同で実施する定期ミーティング、所属グループのローテーションや滞在型研究(合宿)も取り入れ、共同研究推進に貢献するとともに、若手研究者自身のキャリアアップにつなげる。さらに、本プロジェクトからスピンアウトするような研究計画の立案・実施に裁量を与えると同時に本課題から予算配分し、若手研究者の自立した研究推進を促す。